A Coat - W. B. Yeats

Drafts

「外套」 - W・B・イェイツ

 名作というより迷作。こんなこと言っちゃったら、そりゃ批判喰らいますがな、って思う一作。

 後にW・H・オーデンが「狂ったアイルランド」と遺したアイルランドの闇の一端が覗けるかも。

 ここをクリックで音声を再生します。


和訳 原文(English)
僕は自分の詩に外套を着せていたんだ
I made my song a coat
古ぼけた神話の
Covered with embroideries
刺繍で飾られた外套を
Out of old mythologies
喉から踵までにね;
From heel to throat;
だが愚か者たちがそれをかっさらっていって、
But the fools caught it,
それを世界中に見せびらかすように着てしまったんだ
Wore it in the world’s eyes
まるで彼ら自身がそれを作ったと言わんばかりにさ。
As though they’d wrought it.
詩よ、彼らにその外套をくれてやれ
Song, let them take it
だって勇気が要ることだからね
For there’s more enterprise
裸で歩くっていうことは。
In walking naked.

※補足

セミコロン「;」について:
 日本語にはない記述方法ですが、こいつすごい便利なんでそのまま和訳にも流用してます。慣れないうちは違和感あるだろうけど、セミコロンに慣れてね。

外套:
 W.B.イェイツが復興させたアイルランド文学と、彼の輝かしい功績と詩作のこと。たぶん彼は気に入らなかったんだと思います。自分の描いた詩が、まるでアイルランドに住まう人々すべて(特にイギリスの支配を受け入れ、自らアイルランド文学を風化させていったゲーリック・アイリッシュたち)の所有物で象徴のように扱われることが。なので彼は、若い頃にやっていたような「アイルランド的な」作風を捨て、少しずつ「自己の内面の、切り取りと拡張」というスタイルへ変えていくのです。

愚か者たち:
 生粋のアイルランドっ子たち、ゲーリック・アイリッシュのこと。ひどい言い様である。

だって勇気が~:
 いつの時代にも居ますよね。偉人とか詩人の言葉を借りて、かっこつけてる人々って。そういう人々は往々にして、自分の考えというものは持っていない。なので他人が書いた詩や格言を引用するのです、自分の頭の空っぽさを隠すために。しかし、ねぇ。う~ん……。

この詩の背景:
 W.B.イェイツが、それまで自身も積極的に加わり、盛り上げようとしていたアイルランドのナショナリズムに対して、冷笑的な態度を取るようになった頃の作品です。
 当時、グレートブリテン島の上流階級にルーツを持つ、イェイツのような「アングロ・アイリッシュ」という高貴な人々と、生粋のアイルランドっ子で中層~貧民な「ゲーリック・アイリッシュ」では、ナショナリズムにおいて目指す終着点がまるで合わないどころか、相反してしまっていました。
 アングロ・アイリッシュたちは「(自分たちのような、英国にルーツを持つ者も含めた)アイルランドで生まれ育った者のためのアイルランドを作り、イギリスから独立する」ことを目指していましたが、ゲーリック・アイリッシュたちは「アイルランドにルーツを持ち、アイルランドで生まれ、アイルランドで育った、本物のアイルランド人のための独立」=「ブリテン島の野郎どもは、アイルランドから出ていけ!」ってな暴論を唱えていたからです。
 そのことにイェイツは腹を立て、拗ねた結果、この詩を最後にナショナリズムとさよならをするのでした(とはいえ、その後も彼はアイルランドを愛し、ルーツはどうであれ「アイルランド人」であることに誇りを抱き、詩を書き続けます)。
 ゲーリック・アイリッシュたちは当時「高慢ちきなアングロ・アイリッシュたちは、本当のアイルランドの姿を知らない!」と怒ったでしょうし、アングロ・アイリッシュたちは「学のないゲーリック・アイリッシュたちは、自分のことしか考えないのだから始末に終えない」と思っていたことでしょう。要はどっちもどっち、目くそ鼻くそってことですね。所詮そんなもんなんです、ナショナリズムって。だから愛国心を政治に持ち込むべきじゃないんです。そのナショナリズムの成れの果てが、かのIRAなのですから。


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