【第九章 《光帝》継承】

1 シアル騎士団


 沈みかけた二つの欠けた月。もう一つの月は朧雲おぼろぐもさえぎられ、光だけがぼんやりと見えていた。
 隠密の者に足を止められ、彼女は静かに立ち止る。シエングランゲラ・シャグリィアイグ・シアル師団長――かつて「お転婆シエラ」と呼ばれていた彼女――は、人気のない夜の庭園、その東に位置する小さな塔の裏手で腕を組み、無表情で立っていた。
「そうか。焼き払ったのか」
 隠密は無言で頷く。シエングランゲラは一つの小さな麻袋を取り出し、それを隠密に投げた。
「それが報酬だ。約束通り、二五〇ガレティグを用意してある。受け取るがいい」
 それを受け取った隠密は、袋の封を解き、中身を確認する。十ガレティグになる大金貨が二十五枚。そして再び紐で袋の口を縛ると、隠密は闇の中へと消えて行ったのだった。
 これで山の愚民どもも懲りたことだろう。大人しく山に居れば良いものを、神の祝福を受けた崇高な地に態々わざわざ降りてくるとは。サラネムの山が燃え去る様を想像しながら、シエングランゲラは不敵な笑みを浮かべた。
「この世は実に、馬鹿と虫けらばかりで溢れかえっているものだ……」
 見上げた空、淀んだ青色の瞳には月は一つだけしか見えなかった。他の二つは雲に隠れて消えた。それでいい。それでいいのだ。

 月は一つで良い。
 三つも、要らぬ。
 王は、支配者は、神は、一つで良いのだ。

「……実に、滑稽だ」
 “大神術師アル・シャ・ガ”と“金の髪の女王シアル”、そして“銀の髪の女王オブリルトレ”。
 かつてシアルン神国は、その三つの支配者の下に三分されていた。
 大神術師アル・シャ・ガが治めし水の都、銀の髪の女王オブリルトレが治めし肥沃な大地、金の髪の女王シアルが治めし渇きの砂塵の都。
 その昔。恵みの齎されぬ地に住まう者達は、恵みを独占する者たちの肥えた喉首へと刃を突き立てるに至った。そして見事にシサカという名の女王の下、銀の髪の女王オブリルトレの首を持ち帰り、その家に代々伝わる神器の全て、悪魔を封じた十の剣と一の錫杖、それと杯を奪い取り、大神術師アル・シャ・ガをも手駒にしたのだ。そうして、今のシアルン神国という国が制定されたのである。
「この神国に抗うとは、愚かなものよ」
 だが飽きることなく、恩義という名の鎖で縛られたオブリルトレの忠犬――ラムレイルグという蛮族――は、神国に牙を剥いている。故にシエングランゲラはその忠義の対象、オブリルトレの末裔らが住まう村を焼き討っただけのこと。
 災禍の芽は、それが実を結ぶ前に摘み取らねばならぬ。それこそが彼女の信条。唯一無二の忠誠を誓う、主君への忠義なのだ。
「今に見ておれ、オブリルトレ。悪魔崇拝の貴様らなどに、我ら《光帝シサカ》の加護を受けし民が負けることなどありはしない」
 草を踏む音が静かに鳴る。赤い軍服に身を包んだ若き女の後姿に、月の光が当たった。丁度、途切れた厚い雲の隙間から顔を出した三つの欠けた月。と、塔の影からその赤い影を見つめる、淀んだもう一つの蒼い片目も月光に照らし出された。
 シエングランゲラが王宮内に戻ったのを確認してから、パヴァルは腰に携えた片刃の蒼き剣〈聖水カリス〉を握る。そして長らく閉じていた唇の封を解いたのだった。
「……それで隠れているつもりか?」
 闇の中をうごめく影がちらつかせた、二本の短剣。鈍い光が低い姿勢からパヴァルの顎を狙い突きあげられた。
 その動きは充分素早かった。だが不幸なことに、パヴァルのほうが更に素早かったのだ。
 金属と金属が擦れ合う不快な音が鳴る。シエングランゲラが雇った隠密は、小刻みに体を震わせた。何故なら、自分の両手が一瞬のうちに斬り落とされていたからだ。
 赦しを乞うように、口をその隠密が開けようとした刹那。放たれたのは音無き一閃。そして吸いこまれるように鞘に収まったのは、汚れなき片刃の剣。パヴァルはシエングランゲラの隠密から、距離を取るように退いた。隠密の体は地に崩れ落ち、やがて事切れる。そしてパヴァルは骸となった隠密の胸倉のあたりに手を突っ込むと、金貨がわんさかと入った麻袋を掴み取った。
 袋の紐を解き、中を見る。大金貨がきっちり二十五枚入れられていた。そしてまた封をすると、それを自身の胸元の空いている空間に乱雑に押し込む。これはあとでベジェンにでも渡して、王宮の金庫に戻してもらうか。そう呟きながら。
「さてと、これはアイツに報告すべきかー……否か」
 うんざりと眉を顰めたパヴァル。そして音を立てることなく、また何処へと姿を晦ませるのだった。





 侍女たちが、騒いでいる。
「……何があったんや?」
 離宮と呼ばれる宮の護衛を一任されているヴィディアは、「やめて下さい、もう帰って! 帰りなさい! 帰れっつってんだろ!」と騒ぐ女たちの甲高く耳触りな金切り声を聞き付け、一階の玄関へと駆け付けた。出入り口の扉の前では、四名ほどの侍女たちが必死にその大きな扉を押さえつけ、開けられてたまるかと抗戦している最中である。その中には怪力と名高い侍女、ロンディン・ウェルザポも交じっていた。だがその彼女ですら、珍しく力仕事で苦しそうな表情を見せている。
「こんな夜中に、一体全体どうしたんや!!」
「〈革新リボルヴァルッタ〉さま!!」
 侍女の一人が振り返る。
「ここは私達でどうにかします! ですからイゼルナ様のもとへお戻りください!」
 外からは、男たちの怒鳴り声が聞こえていた。
 第二分家、もしくはイゼルナ個人が、他者の恨みを買うような何かをしていただろうか。ヴィディアは考えるも、その答えはすぐに出た。思い当たる節は、一切ない。
 イゼルナ・シャグリィアイグ・シアル。彼女が一人で出歩くことは愚か、行動することは無いといえる。現に彼女はここ数日、この離宮に籠りっきりであった。それに彼女が何かしら不穏な行動をしようものなら、パヴァルが気付いて何かを言ってきているはずだ。
 そして外から聞こえてくる声たちに、ヴィディアは聞き覚えがあった。シアル騎士団、即ち俗に神国軍と呼ばれる者たちだ。表向きは由緒正しき兵士団だが、実態は理念もないただの軍隊であり、裏での動向は怪しきものばかりが溢れている。そしてそれは、兵士団にシエングランゲラが参入して以来、更に拍車がかかっていた。
「ロンディン、あなたがイゼルナ様のもとへ行きなさい!」
 それまで主に扉を一人で押さえつけているような状態であったロンディンが、ヴィディアのほうへ振り向く。その顔は真っ赤に染め上げられており、額から顎に流れるように、大玉の汗が滴り落ちていた。
「今、私がこの場を離れれば扉は開けられてしまいます! それに〈革新リボルヴァルッタ〉さまにはイゼルナさまをお護りするという役目が……!」
「うちは〈聖水カリス〉のような怪物やあらへん。それもこの片腕とこの年齢で、イゼルナさまを最後まで護り通せると思うん? せやから、大丈夫。中に入れさせなければいいだけの話」
 ロンディンは扉から離れると、三階のイゼルナの寝室へと急ぎ足で向かっていく。それと同時に突き破られた扉の前。ヴィディアは鞘から抜いた剣〈革新リボルヴァルッタ〉の二股の切っ先を、目の前に現れた一人の紅い兵士へ向けた。
「おたくら、今が何時か分かっとるん? 真夜中や。イゼルナさまはとっくに寝てるで」
「そこを開けろ」
 一触即発。
 そんな張り詰めた空気が流れる。紅い兵士――シエングランゲラ師団長――の背後に控えた総勢二十名ほどの兵士たちは、後退りをした。
「ここに来るんならなぁー。事前に、武ノ大臣からの承諾を得てからにしてもらわんと、うちが困るんや。それに武ノ大臣、または政ノ大臣の許しがおりていない者が離宮に近付いてはいけないっちゅー決まりが……――」
「その必要はない」
 シエングランゲラの淀んだ青い瞳は、自分以外のすべてを見下すかのように歪む。「私はシアル騎士団師団長であり、政ノ大臣の娘だ」
「そう。あなたは一介の師団長であり、シルスウォッド卿の娘。王族じゃーない今のあなたは、所詮その程度でしかないんや」
「なんだと?」
「〈聖堂カリヴァナ〉は〈神護ノ十剣トウィンガル・ラン・アルダン〉の最高指揮官であると同時に、シアルン神国内全ての武力を持つ組織を統治する武ノ大臣でもある。無論、その管轄内にシアル騎士団が入っているのは当然のこと。武ノ大臣の、ましてや政ノ大臣の許しもなく、勝手な行動は……」
「そのような御託宣に、生憎私は興味がないのだよ。さっさと道を開けないか」
 シエングランゲラは〈革新リボルヴァルッタ〉の黒い刀身を掴もうと手を伸ばす。すかさずヴィディアは、シエングランゲラの手にはめられた籠手を剣の平で叩き、その手を撥ね退けた。舌打ちをするシエングランゲラ。するとシエングランゲラの背後に控えていた兵士の一人が、そのとき初めてシエラの前に出て、剣を引き抜いた。ヴィディアに向けられた切っ先。だがその刃は、小刻みに震えていた。
「神国に命を差し出す覚悟の無いもんが、迂闊に〈神護ノ十剣トウィンガル・ラン・アルダン〉に剣を向けるもんやないでー。剣を持つ手がぷるぷる震えてるようなへなちょこは、うちの相手にもならんわ」
 向けられた剣もまた、ヴィディアは剣の平で叩き落とす。剣は無様に音を立て、地に落ちた。
 剣を扱う者として、自身の腕とも言うべき剣は、腕が根元から断ち落とされようとも決して離してはならない。そんなことすらも神国軍というのは知らないのか。ヴィディアは心の内で、呆れていた。
 シエングランゲラのような者でも師団長という役職に就けるという現実にも、納得がいった。
「武ノ大臣の許しを得てから、出直すこと。イゼルナさまに話があるのであれば、それからや」
「……愚かにも、あくまでその姿勢を貫くというのだな」
 シエングランゲラが、携えた長い槍を構える。
「……武力じゃ何も解決されへんのになぁ……」
 ヴィディアも剣を構える。そして冷静に、相手の隙を狙った。とはいえ、ここ数年の間に剣を嗜み始めた程度の者を相手に、敗する要素など何処にもない。隙ならば今この際にも、幾らでも存在している。隻腕だという点を含めたとしても、それは明白たる実力の差。
 愚かなのは、歴戦の猛者を敵に回したシエングランゲラのほうだ。
「……」
「どうした、黙り込んで。〈革新リボルヴァルッタ〉、お前の取り柄はよく回る口じゃなかったのか?」
「……そーいうの、ほんま勘弁してほしいわー。面倒な仕事、増やさんでくれへん?」
「その忌々しき口、今すぐここで塞いでやろうではないか……!」
 シエングランゲラは槍を、ヴィディアの腹部を狙って突き出した。けれどもヴィディアはその槍を、素早く剣で弾き飛ばす。槍は虚しく飛ばされ、落ちた。
「貴様……ッ!」
「もうやめといたほうが、ええんとちゃう? どう考えても、あんさんに勝ち目はないで」
 そしてヴィディアは再び、シエングランゲラの首筋に切っ先を向けた。シエングランゲラは光の差していない暗い目で、ヴィディアを睨む。ヴィディアもまた、冷徹な目で睨み返していた。
 緊張が漂い、シエングランゲラの背後に控えた兵士たちがまた一歩、二歩と後退りをしていく。けれどもその中に、ただ一人だけ退かぬ者が居た。それどころかその者は、逆にシエングランゲラの前へと歩み出る。するとシエングランゲラを乱暴に後ろへと突き飛ばし、自身がヴィディアの前へと立ってさえもみせた。
「大人しく、イゼルナ・シャグリィアイグ・シアルを出しなさい。その通りにすれば、我らはあなた方に一切の危害を加えることはない」
 声を聞くなり、ヴィディアは顔を顰めさせる。頭の防具が邪魔で顔こそは見えぬものの、その声だけは確かに聞き覚えがあったからだ。そして声の主が誰であるかも、瞬時に判別がついてしまった。
 だからこそヴィディアは一瞬、固まってしまった。まさか、そんなわけが。
 だがヴィディアは、その者に対して刃を向けた。
「一体、何をするつもりなんや!」
「おやめなさい、〈革新リボルヴァルッタ〉! 剣を納めなさい!! それ以上の争いは、何も生みません!」
 ロンディンと共に階段を駆け下り、一階に姿を現したイゼルナは、ヴィディアに剣を納めるよう命じる。だがヴィディアは、耳を傾けなかった。そして前に歩み出てきた兵士が言う。
「それを、あなたに説明する義理はない」
「答えなさい……――リスタァッ!」
 その紅き兵士は、鋼鉄の仮面を外した。ふわりと靡いた髪はシアル王家と同じ、輝かしい金色。青い瞳も、整った目鼻立ちも、凛とした立ち姿も、王族の者と同じである。
 その正体は、リスタだった。
「違う。私はリスタじゃない。始めから、リスタなんて存在していなかった」
 リスタが浮かべた笑顔。それはいつも見てきた愛想笑いのにこやかなものではなく、ひどく寂びれた哀しげな笑顔だった。
「ならば、貴様は誰だ」
「私は」
 ふと、ヴィディアの脳内でパヴァルの言葉が思い出される。

 リスタ、あいつだけはアルダンの中でもズバ抜けて信用出来ねぇと思ってんだ。頭はアレだが、仕事に関しちゃ出来が良過ぎてな。

 その後に、「なんでぇや?」と尋ねはしたが、パヴァルには「手塩に掛け過ぎちまったからだろうな」言葉を濁された。きっと、アイツのこと。初めから全部、お見通しやったんやろな。そして今、それが現実となった。
「リストリアンス・シャグリィアイグ・シアル」
「嘘よ!」
 イゼルナが突如、悲鳴を上げる。彼女の眼には、涙が浮かんでいた。
「そんなはずがないわ! だって兄上さまは、兄上さまは、何十年も前にお亡くなりなられたのですもの……!!」
「イゼルナ、違うんだ。あれは全て嘘だったんだ。現に私はこうして……」
「それ以上近寄らないで!!」
 イゼルナは傍に居たロンディンの背後に隠れ、そこで座り込む。その頬には無数の涙が伝い、床に落ちていった。 嗚咽おえつを上げながら泣く姿から、混乱をしているのは見て分かる。
「兄上さまは、このような乱暴な手段などお選びになどなられないわ!!」
「イゼルナ、私の話を聞いてくれ」
「違う、あなたは兄上様なんかじゃない! リストリアンスの名を騙る詐欺師よ!!」
 ロンディンは自身の背後に座り込むイゼルナを護るように両腕を広げると、リストリアンスを紫の瞳で睨む。その脚は力が籠められているのか、鍛え上げられた男の屈強な脚に変わり果てていた。
「イゼルナさまには指一本たりとも、触れさせはしない……!」
 怒りを顕わにさせたロンディンの鬼のような姿に、怯んだ兵士たちがまた一歩、二歩と後退る。
 だがそんな兵士たちの背後には、独眼の水龍がいつからか佇んでいた。
「……剣を握る者が、嬢ちゃん一人相手に逃げ腰になるたぁ見過ごせねぇなァ、おい」
 闇の中に光る蒼き剣。パヴァルの蒼い目は、冷めた目でシエングランゲラを見ていた。
「逃げんなら今のうちだぜ。ただし、剣は全て捨てて行くことだな」
 にたりと不気味に笑うパヴァル。姿を現した龍神も、その兵士たちに対してその大きな口を開けた。その結果、シエングランゲラ、リストリアンスを除いた兵士たち全ては恐れ慄き、その場に剣を投げ捨て、一目散に逃げ去って行った。
「さてと、そこの師団長サマと元・リスタ。お前らはどうするつもりだ?」
 パヴァルは青き剣を二人に向ける。
「覚えてろ!」
 シエングランゲラはそれだけを吐き捨て、去って行った。そして無言のまま、リストリアンスも去って行く。
「……パヴ、あんさんが何でまたこんなとこに?!」
 二人の姿も遠く見えなくなり、龍神が姿を消したところでヴィディアは、パヴァルに声を掛けた。既に侍女たちは中へと戻り、取り乱したイゼルナの介抱にあたっている。
「シエングランゲラさまを追っかけてた、ってとこだ。ここン所、おかしな動きが多かったもんでよ」
「なんで、それをキャスに報告しなかったん!」
「これから報告に向かう」
「事後報告って……また目くじら立てられんとちゃうの?」
 事後報告をしに訪れたパヴァルに対し、何故事前に報告をしに来なかったのかとネチネチと嫌味を連ねるケリスの姿は何度も目にしてきた光景だ。ヴィディアには安易に想像できる。
「なに、問題ない。アイツは別に、居ても居なくても大差ない存在だからな」
 だから、あの二人は仲が悪いのだ。
 かれこれ半世紀以上の腐れ縁とはなるが、未だにあの二人が相容れることは今までも、そして今後も決して無い。互いに実力は認めあってはいるが、少なくとも考え方の一致は無いし、その点についてだけは互いに決して受け入れようとすらもしない。まあ、それは仕方のない事なのだろうとヴィディアはもう四十年ほど前に諦めている。大袈裟にいえば、ケリスは例え敵であろうとも命までは奪わないような人間であり、それに対してパヴァルは敵であろうがなんであろうがお構いなく目の前に居る人間は全て斬り殺すような人間だ。どう考えても相入れる筈もなく、かといってヴィディアもまたそんな二人の人間性を受け入れているわけでは無い。
 ケリスはあんな顔にあんな図体でありながらもどこか攻めが手緩いのではないかと感じてはいるし、かといってパヴァルはやりすぎだし、もう論外の存在だと感じている。正直なところ、この国のためにはパヴァルのような者は早いうちに殺しておいた方がいいのではないかとも思うが、だがこの世には必要悪というものもある。それを好きで背負ってくれてるからには、神国にとっても使い勝手の良い道具ではあるのであろう。どこまでケリスがパヴァルを信用しているのか、その点については腹の底を探れはしないが。
「だーかーらーっ! そうやないて、何遍なんべん言うたら分かるんや、このド阿呆!」
 片方しかない腕でヴィディアは、片目しかないパヴァルの頭を叩く。いい音が鳴った。
「……まあ、そういうわけで俺ぁこれから執務室に向かう。お前はイゼルナ様のもとへ戻れ。暫くの間は特に、警戒を怠るなよ」
「言われなくとも」
 叩かれた頭を擦りながら、パヴァルは王宮を目指してゆっくりと歩いて行く。ホントは痛くも痒くもないくせに、演技ばかり達者やなぁ。ヴィディアはその後姿を、そう呟きながら見送っていた。