【第六章 帰す者、来たる者】

1 帰郷


「お母さん、お母さん」
 膝を激しく揺すっていた息子が、自分を呼んでいたことにフリアはハッと気が付く。けれども気付いた時には既に、息子は自分のことを繰り返し何度もしつこく呼んでいたようで、どうして気付かないのかと不機嫌そうに口を尖らせていた。
「ルドウィル、どうしたの?」
「なんでもない」
 ふん、と息子は顔を背ける。
「そう言われると、気になっちゃうでしょー?」
 父親に似た、クセっ毛気味の茶髪をフリアは掻き回す。やめてよ、お母さん。誰に似たのかが分からない淡褐色な猫目は困ったように、椅子の隅で縮こまり眠る九尾の小狐を見つめていた。
「だって、お父さんは寝てるし、お母さんもぼーっとしてて、どうしたのかなって思って。それだけだよ」
 向かいに座っている父親は、腕を組んだまま頭を俯かせ、そのまま眠ってしまっているようにも見えている。フリアは息子に指摘され、そのことに初めて気がついたのだった。
「あらら。お父さん、いつの間に眠ってたの……」
 王都を発つまでの三日間と、発ってからの馬車の中での三日間。どたばたしてたから仕方ないのかな。そんな風にフリアは考えを巡らせながら、うたた寝をする父親を見つめるのだった。
 あのパヴァル・セルダッドにしごかれてきた〈神護ノ十剣トウィンガル・ラン・アルダン〉の隊員も、六日近くまともに寝ていなければ体も応えるのだろう。思えば、サイランに一度帰るということが決まってから発つその日まで、彼は最後の最後までリュンやディダンに 扱こきを使われていたし。今くらい、静かに寝かせてあげるべきだ。
「しぃーっ、だよ。お父さんを起しちゃダメだからね、ルドウィル」
 口の前で人差し指を立て、フリアは静かにするように促す。それに対して無言で頷く息子、ルドウィル。丁度そのとき、下から突き上げられるようにして馬車が揺れる。その衝撃に父親、ベンスは驚いたように顔を上げた。
「お父さん起きちゃったねー」
「ねー」
 もう少し寝てても良かったのよ、とフリアはベンスに言う。すると彼は「……寝てたの、か?」と自分が居眠りをしていたことにすらも、気が付いていない様子だった。
「寝てたよね」
「うん。寝てた」
「……そうだったのか」
 パンッ、パァンッ。外からは、鞭を浴びせる耳障りな音が鳴り響いている。
「お馬さんが、可哀想」
 横窓から前を覗き込むルドウィルは、そう呟いた。
「……そうだね」
 王都ブルサヌからサイランまで、馬で行こうと思えば最短の道でも片道で三日は掛かる。
 その三日三晩の間、出来るだけ寝ずに、馬を走らせることが出来るのは誰だ、となったとき。それに当てはまる人物は、一人しかいなかった。
「クル姉ちゃんだったら、こんなことしないんだろうな」
 それは、〈聖水カリス〉パヴァルだった。
 最大で七日もの間、彼は一切寝ずとも行動出来るのだという。それも、疲れを見せずに。
「……」
 疲れも痛みも、全て麻痺しちまったんだろうな。
 彼は過去に、そんなことをさらりと言ってのけていた。けれども、そのことを特に悲観している様子はなかった。即ちパヴァルという人間は、表向きはへらへらと笑っているにも関わらず、その内では何も感じていない、冷酷な男だったのだ。

 快楽殺人とか、衝動殺人とかじゃない。
 あの人は別に、血に飢えてるわけじゃないの。
 でも、仕事で人を殺す。
 そして血に染まった金を得る。
 それが、あの人の生まれ持った業なのよ。

 パヴァルと何故か親しい、ギャランハルダの店主エレイヌは、前にそんなことを零していた。理性で人を殺せる以上に、狂ってることはない。そんなことも言っていたような気がする。
「……そう、でしょうね」
 疲労の所為か動きが鈍くなっていた馬の尻には、鞭が容赦なく打ちつけられていく。その日は珍しくパヴァルが笠を深めに被っていた為に、彼の顔の表情こそ読み取れはしなかったものの、その顔が無表情であることは、なんとなくだが察しが付いていた。
「ねぇ、お母さん」
 何かを思い出したように、急にルドウィルはフリアのほうを向く。
「王都にはいつ帰れるの?」
「そうだね、いつになるんだろう……」

 ウィル坊ちゃんの顔を、親御さんに見せに行ったらどうやろか。きっと、喜んでくれるはずやで。

 そんなヴィディアの提案に「ああ、そうですね」と軽い気持ちで乗ってみただけのフリアは、細かい予定などは特に立てていなかった。けれども大まかな予定としては、二週間ほどで王都に帰るということになっている。
「お父さんのお仕事もあるし、行きと帰りも合わせて二週間くらいかな」
「えー。そんなにー?!」
 考えてもみれば、フリアがルドウィルを連れて王都の外へ出るのは初めてのことで、それにサイランに帰郷するのは、約十五年ぶりのことだった。
 十四歳のときに王都へ連れていかれて、十八歳のときにベンスとの真剣なお付き合いというのが本格的に始まって、二十歳で籍を入れて、二十一歳でルドウィルが生まれて、その際には腰までの長さもあった髪をばっさりと、それこそ肩に掛かるか否かという長さにまで切ったのだ。そしてルドウィルは今、六歳。自分も二十九歳になっていた。
 十五年という年月は、長いようでとても短かく、あっという間でもあった。あっという間過ぎて、記憶が曖昧すぎるほどだ。大まかなことは覚えていても、細かいことは覚えていない。まるで誰かが、自分のこの十五年間を早送りしたかのような、そんな感じですらもあった。
「でもね、ルドウィル。サイランは良いところなのよ。きっと、ルドウィルの好きなものがサイランにはあるはずだわ」
 王都に来たばかりの頃は、今後はどうなることかと思いを巡らせてばかりで、四六時中家に帰りたいとフリアは思ってはいた。けれども、王都という環境に慣れてしまった途端、生活が苦ではなくなり、サイランに帰りたいという思うもいつからか薄れてしまったのだ。
 けれども面目上、フリアやスザン、クルスムといった〈聖獣使いシラン・サーガ〉である三人の傍には、常に誰かしらアルダンの隊員が付いていなければならなかった。その為に住居の選択に自由はなく、フリアとスザンは仮住まい兼事務所の中の空き部屋を一室ずつ借り、クルスムは猛獣舎の一室を、あたかも自分の部屋であるかのように占領するという結果に、今のところは落ち着いている。そして衣食住はアルダンの隊員たちと同様に、全て王宮が保証してくれていた為、これまで特にお金で困るようなことはなかった。つまり監視さえなければ、このうえなく快適な生活だったのだ。
「やーだー。早く王都に帰りたいよー」
 その昔、宮中はシェリアラ派、シエラ派に分裂し、両派が互いに睨みあっていたというのは、風の噂で聞いていた。だがその実感は、フリアにはあまりなかった。
 けれども時が経つと、その諍いは自然消滅していった。何故ならば。シエラ派が無くなってしまったからである。父であるシルスウォッド卿に反旗を翻したシエングランゲラが、大臣の娘という身分を捨て、神国軍の一兵卒になってしまったことが原因だった。
 故に、崇める対象が無くなってしまったシエラ派は自然と消え、いつからか貴族同士の小さな諍いを耳にすることはパッタリと無くなってしまった。
 王宮は、平和になったのだ。
「もう、まだお祖父ちゃんにもお祖母ちゃんにも会ってないのに。悪い子ねー」
 けれども、前《光帝シサカ》であったシェリラが亡くなってからそれ以降。考えてもみれば、《光帝シサカ》継承ノ儀というのは、執り行われていなかった。
 今のシアルン神国には事実上、《光帝シサカ》が居ないことになっている。
 フリアの記憶が正しければ、現在の《光帝シサカ》に替わる最高権力者は〈大神術師アル・シャ・ガ〉になっていただろうか。
 思えば〈大神術師アル・シャ・ガ〉という人物が、神国の最高司祭であるとフリアが知ったのは、つい最近のことだ。本気で、腕の立つ鍛冶師だと思い込んでいた少女の頃の自分を思い出すと、顔が赤くなりそうな気分である。
 けれども、フリアは〈大神術師アル・シャ・ガ〉と一度も会ったことはない。だからこそ、〈大神術師アル・シャ・ガ〉とはどんな方なのかという好奇心は、日に日に募っていくばかりだ。
「もうすぐサイランに着くのよ、ルドウィル。お母さんが生まれたところも、そんな悪いところじゃないんだから」
 そう遠くないうちに、紛争が起こるかもしれないわね。エレイヌはいつか、そう言っていた。パヴァルもその話に、無言で頷いたことがあった。
 それはシェリアラ派とシエラ派の抗争なのか、はたまた別の何かなのか、それはフリアには分からない。けれどもそんな雰囲気を一切感じさせぬほどに、自分の目の前にただ広がっている現実は、平和そのものでしかなかった。
 本当にそのような諍いが、世界のどこかで起こっているのだろうか。そんなことを、突然通りすがりの誰かに尋ねたくなるほど、世界は平和だった。
「……」
 それとシルスウォッド卿という人物に関しては、最悪でしかなかった第一印象とはうって変わり、今のフリアは「思ったよりも悪そうな人じゃないのかも」と思いさえしている。フリアは彼と一度だけ、初めて会った時のあれ以降に、話をする機会があったのだ。
 その時にフリアは、彼は性根が歪んだ人物ではないなと感じた。なにせ顔を合わせてまず始めに彼が何をしたのかといえば、あの日の無礼を詫びてきたのだから。それも、王族だとは思えないほどに、深く頭を下げて。
 それにシルスウォッド卿は、普通に話をしている分には、とても頭の良い方なのだなという印象を受ける人物だった。けれども時折シエングランゲラに向けられる視線に、フリアは違和感を覚えていた。自分の娘であるはずなのに、それなのに、彼はどこか怪物を見るかのような目で娘を見ていたからだ。
 もしかすると、母性や父性というものを、否定的に捉える側面を持つ人なのかもしれない。今では、そんな結論に至っている。
「でもお母さん、サイランにユン兄ちゃんは居ないよ。動物も居ないし、薬草もあんまり生えてない。火山のふもとの街だから、岩だらけだってユン兄ちゃんは言ってたよ」
「それは……そうなんだけどね」
 ルドウィルの名付け親というのだろうか、それに値するのはユインだった。
 あれはベンスと二人、生まれてくる子供の名前で迷っていたとき。ひょんなことからユインが「ルドウィル、なんてのはどうだ」と言ったことから、“ルドウィル”という名前に決まったのだ。後からユインに聞いた話によれば、ルドウィルというのは古代シアル語で「炎に祝福された子」という原義を持つ名前なのだという。まさにこの子の為にあるような名前だと、その時フリアは確信した。
 そしてルドウィルは、ユインと非常に相性が良かった。何かにつけてはすぐ「ユン兄ちゃん」とユインに付いて行き、ユインの手伝いやら雑用やらをやっているらしい。それゆえか、ルドウィルは将来は薬師になると言い張っている始末。
「……」
 学ぶことは悪いことじゃない。母親であるフリア自身は、そう思ってはいる。けれども。やはりフリアという母親としては、自分の子供が関わる相手は選んでほしいという思いもあった。
 ユインは正直言って、異常だ。
 悪い人ではないというのは、重々承知している。自分自身も怪我をした際には、幾度となく世話になっていたりはしている。頭は上がらない。
 だが、なにより天才肌なのだ。
 天才は一日にして成らず。よく聞く言葉ではあったけれども、ユインの幼馴染だというクルスムやファルロンの話を耳にする度に、フリアはそれを痛感するのだ。
 毒される、という言い方は語弊を招くのかもしれない。
 だが、ルドウィルは決してそのような天才ではない。
 それが正真正銘の天才の傍に居ることによって、その天才の色に毒されてしまったら、どうしよう。
 そんな杞憂が、心の片隅に存在していた。
「お薬のお勉強も面白いと思うけれど、鍛冶のお勉強も面白いんだよ?」
 へぇ、と興味を示したのか、退屈そうだったルドウィルの瞳がきらきらと輝き始める。血は争えないんだな、とベンスが呟いたのが聞こえた。
「悪かったわね」
「いや、その」
「いいのよ、別に怒ってないわ」
「いや、どう考えても怒ってるじゃないか」
「怒ってませんけど」
「……はい」
 鉄独特の匂いが、漂い始める。馬が進むにつれ次第に、金属を金属で叩く懐かしいあの音が近づいていた。フリアもまた、胸の高鳴りを覚え始める。帰ってきたんだ、という実感も、着実と沸き始めた。
 馬車の動きが止まり、パヴァルは外側から馬車の扉が開ける。そしてパヴァルはルドウィルを抱き上げ、馬車から降ろした。次に子狐リシュが馬車から飛び降り、パヴァルの手を借りてフリアが降り、最後にベンスが降りた。
「……帰ってきたのね、サイランに」
 フリアの目の前には、懐かしい生家が昔の面影をそのままに建っていた。玄関からは、母親のフランダと父親のシャンが慌ただしい様子で出てくる。それを見ながらフリアは、くすりと笑った。
「フリア!」
「お帰りなさい、フリア!」
「ただいま帰りました。お父さん、お母さん」
 そしてフリアは両親にルドウィルを預けると、荷台に詰め込んだ荷物をベンスとパヴァルの手も借りて、全て降ろした。
「これは……」
そして荷物の中には見たことのある剣が四本ほど、紛れ込んでもいた。
「ああ、それか。シャンにコイツら全部、修理をしてもらおうと思ってな。詰め込んだわけだ」
 〈聖堂カリヴァナ〉、〈咆哮ベイグラン〉、〈革新リボルヴァルッタ〉、ブリュンナルカ。どれも長いことまともに手入れをされていなかったのか、酷く刃毀れしている。
「これを全部か。相変わらず無茶なことを要求するなぁ、お前は」
 いつからか表に出て来ていたシャンは、口元に苦い笑みを浮かべながら腕を組み、パヴァルが抱えていた剣の束を見ていた。そんな父の顔には皺が増え、髪も白く染まっている。それが改めて、十五年という時の流れを感じさせた。
 そしてベンスが剣の束を抱え上げると、シャンは嫌そうな視線をパヴァルに送りつけるのだった。
「お代はしっかりと頂くからな」
「当り前だ。受け取る際に、しかと払わせていただきますことよ。で、ざっと見積もって料金はどれくらいだ?」
「そうだな、二五〇ガレティグでどうだ」
「二五〇ガレティグ? これ、全部で?」
「高いとでも言いたいのか」
「いやぁ、逆だ。この疵具合じゃもっといくと思ってたんでな。……予算より安く済むなら、それにこしたことはない」
「アルダンの隊員が金勘定を気にするとは。意外だな」
「そんだけ、今の王宮の金庫はカツカツなんだよ。無駄遣いなんざしようもんなら、エディス・ベジェンがキーキー騒ぐんでな」
「エディス・ベジェン? 誰だ、そいつは」
「今の資ノ大臣だ。貴族ではなく、王都の露天商のあがりでな。財政を管理する腕は確かなんだが、些か怒りやすい女でなぁ……。まっ、それはいい。頼んだぞ」
 そしてパヴァルは、二週間後に再び来るとだけ言うと、馬車から馬だけを離し、二頭の馬を連れて、帰路についていった。馬車の本体だけを、庭に置き去りにして。パヴァルらしい、といえば実に彼らしい去り方だった。
「……」
「お父さん?」
「アルダンとは歴史ある由緒正しい騎士団だというのに、その隊員は随分と自由なもんだな。いや、それとも自由すぎるのは〈聖水カリス〉だけなのか……?」
 ちらり、と横に佇むベンスに目をやるシャン。君は〈三日月ルヌレクタル〉だったな、とシャンは言うと、続けざまにフリアへと視線を移した。
「まさかフリア、お前が結婚できて、そして子供まで授かるとは夢にも思わなかった」
「何よそれ、酷いわね」
「それも、いかにも真面目そうな婿さまじゃないか。よく嫁に貰ってもらえたな」
 ガハハッと笑う父親を横目に、フリアはムッと眉を顰める。
「……」
 果たして彼は、“真面目な婿さま”なのかしら。
 フリアがベンスを見ると、視線に気が付いたのか、ベンスはフリアから意図的に目を反らした。
 ベンスはたしかに、馬鹿が付くほどの真面目だ。〈神護ノ十剣トウィンガル・ラン・アルダン〉のなかでは、ベンスが一番誠実であるのではないかとさえ思えるくらい、誠実でもある。それは事実だ。
 けれども、その誠実さと能力を買われ、様々な仕事を彼は任されている故に多忙で、フリアやルドウィルの傍に居る時間というのは、とても少ない。それに終業は毎日夜遅く。フリアは起きていたとしても、ルドウィルは寝ている時間帯だ。
 それにルドウィルが大怪我をしたとか、何かしらの大事が起きた際にも、ベンスはほぼその場に居ない。大体、フリアを助けてくれるのは、ベンスではない別の人たち。ヴィディアであったり、パヴァルであったり、スザンであったり、クルスムであったり。その所為で摩擦が生じ、大喧嘩を深夜に繰り広げたこともあった。
 そしてあの時。フリアらの喧嘩を見て大泣きをしたルドウィルの泣き声を聞きつけ、部屋に殴り込んできたユインに、フリアは怒鳴られたのだ。子供の前でみっともねぇ喧嘩をすんじゃねぇ、それでも人の親か、と。そんなユインの気迫に怯んだベンスは、その場で自分の非をすぐに認めたことにより、喧嘩は一応収まった。
 ……思えば、その件以降だろうか。ルドウィルがユインに付き纏うようになったのは。
 基本的にユインは、事務所の外に滅多なことがない限りは出ることはないから、パヴァルのように突然下手なところに連れ出すという心配もないし、学舎に通わせられるほどの資金は持っていないフリアたちに代わって、字の読み書きなども、学舎で学ぶ以上のものを気まぐれで教えてくれているというから、助かってはいる。……のだが、やはり複雑な、もやもやとした蟠りが、フリアの心の奥底では漂っていた。
 と、そんなことはさて措き。ベンスは良い旦那なのか。そう問われれば答えは一つ。
 いいえ。
「違うわよ。初心で晩生などうしようもないヘタレ男を、私が婿に貰ってやった、でしょ?」
「……はい。その通りです」
「ほぉ。お前達のところは、旦那が嫁の尻に敷かれているのか」
 頑張れよ。シャンはベンスの肩をポンッと叩くと、自分に付いてくるように促す。
「その剣の束を作業場に置いてもらいたいんだが、頼めるかね。婿殿よ」
 そんなシャンの発言にフリアは咄嗟に違和感を、矛盾を感じた。
「ちょっと待ってよ、お父さん。私はあんなにお願いしても鍛冶場の奥に一度も入れて貰えなかったのに、ほぼ初対面の彼は良いっていうの?!」
「初対面じゃないだろう? それに荷物を置いてもらうだけだ」
「ほぼ初対面でしょ!!」
 ああ、おっかねぇ。早く行くぞ、婿殿。そう言うとシャンは、ベンスを連れて作業場へと消えていった。
「何よ、もう……」
 折角帰ってきたと思ったら、その直後に不意打ちの嫌な思いをお見舞いされた。
 気分は、最低最悪だ。
「ベンスのバカーッ!!」
 敢えて聞こえるように、フリアは大声でそう叫ぶ。
 けれどもそんなフリアに構うことなく家の中へと駆け込んだリシュは、彼女の母親であるフランダの足元に早速付き纏い、フリアに抜きにされた昼飯の催促をしていたのだった。